今年は12月に入ったとたんいきなり寒くなりました。
冬は、葉が落ちて木の枝ぶりや姿を描くにはちょうど良いですし、
去年は装備を整えてノスリなど鳥も見に行きましたが、
今年はのっけからとにかく寒くて、野外スケッチに行く気力が湧きません。
で、今年の冬は少し趣向を変えて、時々
「仕組みを知って、想像でデッサンする」練習をしています。
特に人間を見ないで描きたいので、
大学時代に習った美術解剖学を、
改めてやっています。
美術大学では、専攻によっては、見ないで描く事は推奨されませんが、
しかし、「想像で描ける」という事は獲得しておくべき
能力だと、近頃強く思うようになりました。
人間の骨格や筋肉の着き方はとても複雑です。
しかし、最近は、コンセプチュアルアートやアニメ
マンガなどの分野で「想像で描ける』ことが要求されるので、
美術解剖学が改めて注目されていて、
良い本が次々と出版されるようになりました。
私は以下の二冊を中心にボチボチやっています。
このウィンスロウ版は昨年の4月に出版され、評判が良いのか
一年で既に5刷です。
非常に詳細ですし、大学の授業で使える内容で、
超お薦めです。
ただ、独学でやる人には特に第一章がハードルが高いかもしれません。
もう一冊。
このヴァレリー版が出版されたのは四半世紀以上前。
私は以前からこちらを持っていて、
しかし正直言うと難しくて、全く使いこなせなかった。
が、今回、上のウィンスロウ版の不足を補ってあまりあり、
この二冊があって、人体の美術解剖学はほぼ網羅されたと言えるでしょう。
ダヴィンチもミケランジェロも膨大な「想像によるデッサン」を残しています。
もちろん、同じくらい沢山の「見て描いたデッサン」もあるわけで、
見て描く事と、想像して描く事は、創作の両輪です。
葛飾北斎も膨大な想像による「北斎漫画」を残しています。
直しの聞かない墨でちょいちょいと描いてしまう能力は
ミケランジェロもビックリでしょう。
実は今回、もう一冊参考にしているのが
マンガの神様、手塚治虫の「マンガの描き方」という本です。
見ないで描く、と言ったら北斎だけでなくマンガですから、
きっとヒントがあるだろう、と思ったわけです。
そして、この中で、手塚治虫も、写真なんか見て描くよりも、
本物のデッサン(見て描く事)と心のデッサン(想像で描く事)
の両方を薦めています。
以前、安野光雅の「絵の教室」という本にも同じような事が書いてありました。
この中で、安野さんの知り合いのイラストレーターの方が
爬虫類が好きで、
見ないでそのウロコが身体の流れに添ってカーヴしている様子を描き分けて
感心したという記述があります。
今は普通に写真を使って絵を描く事が行われています。
しかし、仕組みを知れば、想像で描けるわけです。
仕組みを知らずに、写真に写った部分だけ写真の通り描く事より
想像でも仕組みが分かって描くことの方が説得力がある絵が描けそうです。
最初にその事に思い至ったのが、鳥を描こうと思った時です。
なぜ鳥は飛ぶのか、どうやって飛ぶのか、
それを知るためには、どうしても骨格を知る必要がありました。
鳥の博物館へ行って、何体もの鳥の骨格をデッサンしているうちに
見ないで鳥は描けるようになってきました。
最初はまったく分からなかった羽の畳まれ方や
羽ばたくときの羽の動き、
そういったものが少ずつ見えて来るのです。
もし、鳥を描いていなかったら、
人間の美術解剖学にこれほどすんなりと馴染めたかどうかわかりません。
人間の骨格は頭から肩までのつながりを描いてみました。
人間は首と肩の骨格が複雑に絡み、そして実に巧みに出来ています。
第七頸椎の下から一番上の肋骨が出ていて、
その上に肩甲骨からの骨がまたいで鎖骨につながっています。
二次元に描くのはなかなか難しいですが、
3次元を頭で想像しながら描いていました。
こうやって、想像力を養いつつ、
実物を見て描いてく事も怠りなくやらなければなりません。
電車の中で描いたものです。
電車の中は意外に揺れるのですね。