都美館の作品撤去要請と宙に浮く「石」

雪の影響もあったのですが、少し難儀な作業に取りかかっていて、
スケッチに行くことが出来ず、新しい画像があげられません。

3月の半ばくらいまでこんな状態が続くかもしれません。

記事も気になる事はいろいろあるけど、
アトリエ日記としては気になるのが、
都美館の作品撤去要請のニュースでした。

都美術館作品撤去要請 撤回求め署名活動

私もこの署名には署名しましたが、
同時にいろんな視点からも考えてみたいと思っています。

もちろん、ここでは第一義的に「表現の自由」が問われるわけです。
今回政治的である事が忌諱されているわけですが、
そもそも、政治的でない事が世の中にどれほどあるのか、
とは思うわけです。

個人の恋愛を扱うだけなら、政治的でないかもしれませんが、
個人と言えども社会と接点を持っている以上
日々、政治的に思考しなくても、
政治的存在である事はむしろ当然だと思えます。

税を払う行為も、学校に行く行為も、
国家というシステムの中で運用されており、
その国家というシステムの運用方法を決めるのが
政治なのですから。

私たち日本人は、ことさらに政治に関わる事を避けるように
教育されますが、実はこれ自体が、実に政治的な側面を持ちます。

つまり政治に関わらないでいてくれたら楽だという
政治や行政の「政治的な」思惑以外何ものでもないからです。

その事は端に置いておいても、
自分の作品を社会に発表する時点で、
ある程度の社会性は内包していて、
社会性には当然政治性も含まれているから、
作品を世に問うた時点で多少の「政治性」は
作者が意図しなくても、
見る人によっては生まれます。

今回は、美術館側が、見る側の気持ちを
「政治性」と言う言葉で忖度した結果が
撤去要請だったのだろうと思います。
だから、私は、署名をしたのですが……。

「……が。」と言うのには訳があります。
もちろん撤去要請撤回に署名したのは、政権が変わるたびに
忖度されて「政治性」が問題になる事が、
「表現の自由」からはあり得ないからですが、
しかし、撤去要請を受けた作品自体を写真で見た時、
その「表現」に諸手を上げて賛成、とは思えなかったからです。

本当は実物を見ないで論評は避けたいのですが、
どうやら、灰色のカマクラみたいな半円形のオブジェに
ペタペタと新聞の切り抜きや「反戦」と言ったような
直裁な言葉を書いた紙を貼っているようなのです。
立体コラージュとでもいうのでしょうか。

確かに今急激に政治が悪化していて、
思わず日頃の思いを貼ってしまったであろう事は想像に難くないし、
コラージュ自体は昔からある表現方法ではあります。

しかし、ネット見ただけでもキラ星のごとくの表現が溢れているこの時代に
あまりひねりも感じられず、格段に美しいとも思われない方法が
はたしてどの程度見る人の心を動かしたでしょうか。

実は反戦やら反核では、
U.G.サトーさんという作家さんが
面白いアイデアでポスターなどを作っています。

作品解説は ↓ こちらから読めます。
多面体U.G.サトー、笑いのDNA

そして今日、偶然に、
カナダのパフォーマー マイケル・グラブ (Michael Grab) の
「重力接着 (Gravity Glue)」
Gravity Glue
という作品を目にしました。

こちらからは動画が見られます。
【重力接着】「にわかには信じられん」はこのためにある言葉。石が奇跡のバランスで、あり得ない風景を作り出している

石を積み上げて行くだけなのに、すごく不思議な力を持っています。
重力とバランスだけでこういうことができるのですね。

一方、石ではなくて小枝や羽でバランスをとる日本女性も居ます。
Miyoko Shida Rigolo – an incredible performance

どちらもパフォーマンスとして素晴らしいけれど、
マイケル・グラブさんのパフォーマンスは
重い石が微妙なバランスで宙に浮いているかのごとくに見える点で
より見るものに異界を覗かせてくれるようです。

そして、重力と言うどこにでもあるものの力を
引き出してくれたような感じがするのと同時に、
万物とか森羅万象とかそういったものへの圧倒的な信頼感を感じました。

人間は飛行機を作ったり、宇宙探検に行ったり、いつもその重力から
解き放たれようとして来たけれど、
実はその重力自体がこれほどの神秘であったとは。

そういう事を思うと同時に、
マイケルさんの作った石のあまりの不思議な美しさに
戦争とか競争といったような事が
とても些末な事のように見えてきます。

もしかすると、人々から戦意を失わせるこの「表現」こそが
一番の「反戦」かもしれない、
と思うのです。

是非一度、この人のワークショップに参加したいものです。

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