「見つめる鍋は煮えない」

先日本屋に入った時、平積みになっていた
外山滋比古氏のロングセラー「思考の整理学」を買って読んでみました。
累計で180万部という息の長い著作です。

帯に「なぜ東大生・京大生はこの本を読むのか?」とあり、
新学期の学生さんにはキャッチーかもしれませんね。

結論から言えば、562円なら、学生さんでも主婦でもサラリーマンでも
お買い得だと思います。

そして著者は「ハウツーものにならないように」と語っているけれど、
ざっくりわければ、とてもソフィスティケートされた「元祖ハウツーもの」でしょうし、
アイデアに詰まった時、思考のまとめ方が分からなくなった時、
後発をいくつか読むより、これ読んでおけばいいのではないか、というものだと思います。

この本では、いくつかのテーマが繰り返し出てきます。
大きくわけて3つあります。

一つは「見つめる鍋は煮えない」
そしてもう一つは「朝ご飯を食べない。朝飯前に仕事をする」
最後に「独創的とは、知のエディターシップである」

の3つです。

一番目は結果を焦るな、物事が熟すには時間がかかる、
解決策はその問題を考えていない時に見つかったりするものだ。
鍋が煮えるのを見つめて待っているのではなく、
忘れて、他の事をしていると、いつのまにか鍋が煮えて料理が出来ている、
という訳です。

ただ、その期間が、10分や20分じゃない問題もあって
「寝かせる」必要がある、時には10年位かかる時もある、
という訳です。

そして、夜考えていた事は、何故か朝になって解決している事が多いと、
小説家のウォルター・スコットや数学者のガウスの言葉を引用しています。

朝の方が夜より頭が良いから、起きたら朝ご飯を食べて血を胃に集まらせるよりは
朝飯前に仕事をすべきだ、と説きます。

実は私は、この外山氏の「朝ご飯を食べない。朝飯前に仕事をする」
というのをもう20年以上続けています。

といっても、自分の体調から自然とそういうリズムになったのであって
外山氏に感化されたわけではないのですが。

外山氏はあちこちで、この「朝ご飯を食べない。朝飯前に仕事をする」話しを
話したり書いたりしていらっしゃるので、私はもちろん目にしていて、
著者には失礼かもしれないけど、なんだか他人のような気がしませんでした。(笑)

私の場合は、その日にやらなければならない事で最も重要な事を
朝ご飯の前にやります。
睡眠というのは、その前日の疲れを取るだけではなく、
多分睡眠は脳にとって最大の栄養なのでしょう。

三番目の「知のエディターシップ」は松岡正剛氏も
「編集力」という言い方をしています。
オリジナルのものはそう多くはない。
無関係に見えるものが結びついた時に
面白い発想が生まれる、という事のようです。

全編、上に並べた3つのテーマに枝葉を付けて、
また、実際にどのようにメモやノートを付けるか
具体的に述べられています。

★★★★四つのお薦めです。
五つでないのは、私にとっては目新しいものは多くなかったからです。
それだけ、この人の言説が流布しているからでしょうが、
流布した言説ではなく、著者の言葉で一度は確かめたほうがいいでしょう。