若者の街、原宿にある浮世絵の美術館

原宿のケヤキ並木はスカウトのメッカです。

スカウトとおぼしき人たちは、見かけはごく普通のお兄さんたち。
ケヤキの木の下の柵にズラリと並んで
何気なく人通りを見ている風ですが、
歩いている私の前をツツツと進んで、
左手前の女性に近づき声をかけます。
その近づき方が、実にタイミングがよくて、
芋を洗うように歩いている人の群れに
ぶつからずに、お目当ての女性に近づくスキルはさすがです。

見ていると、その左手前の女性は何人ものカメラマン(女性もいます)
やスカウトとおぼしき人たちに声をかけられています。

斜め後ろにいる私は、顔が見えないので、
きっと魅力的な顔立ちなのだろうと、
見てみたい気もしましたが、
目的の通りへの角を左に曲がらなければならず、
断念しました。

私が向かったのは、
浮世絵の美術館「浮世絵 太田記念美術館」です。

私設ですが、約14,000点もの浮世絵を所蔵している美術館です。
原宿という地の利を生かして、海外からの
観光客も大勢訪れています。

今、太田記念美術館では「歌川広重」をやっています。
あの、東海道53次で有名な広重です。

今回の目玉は「月に雁」
知らない人がいないくらい有名です。

今でこそ、この構図を見てはっとする人は少ないでしょうが、
当時は、満月をすっぱり切り落として、
望遠レンズで捉えたかのような雁をを斜めに配した大胆な構図は
本当に新鮮だったと思います。

この大胆な構図は、まさに広重の真骨頂です。
今展覧会では、この他にも、「紫陽花に川蝉」「雪中蘆に鴨」
などが陳列され、鳥と植物を配した、いわゆる「花鳥風月」の世界が
展開されています。

なんだか古そう……。

と思われるかもしれませんが、
デザインとすらよべるその斬新な構図と大胆な遠近感、
そして確かな描写力は、魅力に溢れ、都会的ですらあります。

繊細でありながら、リズミカルな筆さばきは、
西洋絵画の、対象を塊で表現する対局ですが、
実はしっかり目では塊で捉えているからこその、匠の技です。

目からのインプットと手によるアウトプットの間に
脳内で二次元変換による研ぎすまされた線が生まれるのです。

特に、鳥はじっとしていません。(当たり前ですが)
私は自分が鳥を描くようになってよく分かるのですが、
カメラもビデオもない時代に、
絵描き達はどうやって飛んでいる鳥を描いたのだろう、
と心から脱帽です。

伊藤若冲が庭にニワトリを何匹か飼ってひたすら観察して描いたことは有名です。
しかし、雁や川蝉は野鳥です。手元に置くわけにはいきません。

考えられることはただひとつ。
やはりひたすら観察したのでしょう。
目も良かったんだろうな、と思います。

それでも水鳥は、水に浮かんでいる時は割合と楽に観察出来ますが、
川蝉の素早い動きの様子など、ナショナルジオグラフィックの
カメラマンもビックリの一瞬を捉えています。

さらに想像するに、死んだ鳥を観察したりして、骨の仕組みを知って、
目の記憶と重ねあわせたりしたのだろう、
とは考えられます。

しかし、そういったしたであろう苦労や陰の努力なんて微塵も見せない
大胆な構図と、筆に足があるのではないかと思われるような筆致は
私達を魅了してやみません。

この展覧会は26日(木)まで。
700円と手頃な入場料と、広すぎない展示スペースが手軽で、
原宿に行った時にちょっと寄ってみるのはいかがでしょう。

来月は、漫画のルーツと言われる「笑う浮世絵ー戯画と国芳一門」です。
こちらも楽しみ。

なお全国には、広重を収蔵する美術館がいくつかあるので、ご紹介しておきます。
那珂川町馬頭広重美術館(トップページの落款は「月に雁」にも使われています。)
静岡県東海道広重美術館
中山道広重美術館
広重美術館