映画「セバスチャン・サルガド」、人間を写し続けた報道写真家が自然と大地に包まれる

ヴィム・ベンダースが共同監督をつとめる
ドキュメンタリー映画「セバスチャン・サルガド」のご紹介です。

ロードムービーの巨匠として名を馳せたベンダースは
「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」などの
ドキュメンタリーでも秀作を残しています。

今回はブラジル出身の写真家「セバスチャン・サルガド」がテーマです。

恥ずかしながら、私は、この報道写真家として数々の賞に輝く写真家について
ほとんど知りませんでした。

たまたま塚本晋也監督の「野火」を見に行った帰りに
文化村で上映されていることを知り、
ようやく10月に入って他館に移った時に見ることができました。

「野火」の話しも記事にアップしたい。でも今日は「サルガド」。
とにかく素晴らしい。
その写真はもちろん、その生き様が。

今は、ツイッターなどでも(多分加工した)夢のようなカラフルな写真が
流れてきます。
しかし、セバスチャン・サルガドの写真は一貫してモノクロームです。
彼のパリのスタジオの壁には所狭しとモノクロームの写真がびっしりと貼られています。

墨の世界には「墨に五彩あり」という言葉があります。
黒から白だけの世界が雄弁に語りうるからです。

と言っても
サルガドの作品は、モノクロームが色を語る、ともちがい、
光が語っているのです。
光を捉える写真の原点がそこにあるような美しさ。
ただ、あまりにきれいで、虐殺などを写しても別の世界のように感じてしまうほど。

虐殺、と書きましたが、サルガドの報道写真家としての姿勢は常に
マイノリティーへむけられ、世界の片隅に生きる人々を写し取るものです。

建築家の妻レリア(この人がすごい)と二人三脚で、
数年単位でプロジェクトを立ち上げ
「アナザーアメリカ」「サヘル」「ワーカーズ」といった、
飢餓に苦しむ人々や金鉱で働く人々を写して行きます。

多くは飢饉や内戦に巻き込まれた人々や
厳しい労働環境の働く人々なので
社会的使命が彼を突き動かすのでしょうが、
見ている方が息苦しくなるようなシチュエーションも少なくありません。

そしてルワンダの大量殺戮の撮影に費やす日々にサルガドは
その残酷さに自身が疲弊してしまうことになります。

そして、人間社会の残酷さから自然界の豊かさを求めて
新しいプロジェクトを始めた……

という話なら、
ありそうな話しなのですが、

サルガドのすごいところーー実はこれは妻のレリアのすごさでもあるのですが、
はもっと壮大なストーリーを作り上げてしまうのです。

ここからはまるまるネタバレです。
と言ってもサルガド自身が語る自伝も出ているようですが。

ルワンダの虐殺で疲弊したサルガドは
その時ちょうどご両親の体調が悪く、故郷のブラジルに戻ります。
ただ、そこで見たものも、小さい頃サルガドが見た豊かな故郷ではなく
あちこち禿げ山が出来た赤い大地でした。

ところが、ここで妻のレリアが冗談みたいな提案をします。

彼らは「植林」を始めたのです。

年譜を見ると、1994年くらいから始めたようで
1998年には大西洋岸森林再生プロジェクトが軌道に乗った為に
レリアとインスティテュートテラを設立とあります。

そして、2004年からこの映画のテーマにもなっている
「ジェネシスGenesis」プロジェクトを始めます。
世界中の動物や原住民や自然をカメラに収めるプロジェクトです。

Genesisは、聖書の創世記のこと。
旧約聖書の冒頭で、
天地創造の冒頭の部分を含むものです。
  1日目 暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。
2日目 神は空(天)をつくった。
3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせた。
4日目 神は太陽と月と星をつくった。
5日目 神は魚と鳥をつくった。
6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくった。
7日目 神は休んだ。

というこれですね。

ベンダースは、映画で、サルガドの撮影した写真とともに
サルガドのインタビューを織りなすようにはさんでいきます。
そのインタビューやジェネシスの撮影に同行して
サルガド自身を撮影するのが
サルガドの息子でこの映画の共同監督のジュリアーノ・リベイロ・サルガドです。

で、レリアの提案した植林は立派な森へと成長して行きます。

実際自分達の育てた森の木々を愛でるサルガドが出て来るのですが、
20年もたたずに森になるのか、という疑問はあります。
日本でいうと、明治神宮の森が100%人工の森ですよね。
あの森が約100年。

サルガドたちは150種類ぐらいの植物を土地にあうものを選んで植えたそうで
20年もあれば、それなりになるのかもしれません。
実際フィルムに写っている森は立派な森でした。

映画では詳細は語られていませんが、
レリアとともに作った森は国立公園になっているそうです。

そこで検索してみたところ出てきました。
The Instituto Terra

“Do you Know what is possible to do in 15 years?”

とあります。

本も出ています。

人間、やろうと思えば出来るんですね。

私はこのサルガドの森の物語を見て、
振り返って日本のネイチャーリテラシーの貧弱さを痛切に感じてしまいましたね。
三陸海岸に海が見えないほどのコンクリートの堤防なんて作っちゃって、
実は津波からは植林で守ろうという話もあったのに。
日本の自然利用の行政や政策を見ると、
余りに知恵がなく、自然を活かせず、
はらわたが煮えくり返るようなものばかりです。
ドメスティックおじさんたちは、壊すことしか知らない。
一度壊したら戻すのが大変。

しかし、サルガドのプロジェクトは、
心ある人間が取り組めば、自然も回復できる,
という希望の光を示してくれているようです。
(だからといって、ドメおじさんたちは許せないけど。)

ここまで書いて来て、ふと思い出して確か日本にも
「森の長城プロジェクト」ってあったような気がして調べたら、ありました。
「森の長城プロジェクト」
こちらにも、20年で森になる、とあります。
本当はこういうことを税金でやるべきなのではないでしょうか。

さて、話しを映画に戻します。
是非多くの人に見てもらいたい映画です。
公式サイト

まだ各地で上映されるようなので、
私はもう一度見たいですね。

それから、サルガドが取り組んだルワンダの虐殺時に
人々を救うことに奔走する人がテーマの「ホテルルワンダ」。これも必見です。

↓公式ツイッター

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