憲法違反の法案が通ると、どんな社会が来るのか? 弁護士さんの講演を聞いて来ました(1)

クリエイターEXPOが終了し、気になっていた違憲問題の講演会に行ってきました。
弁護士の川上詩朗氏の「安保法制を徹底分析」という講演会です。

条文にも言及するので、2回か3回かに分けます。
今日は以下の二つ。
1)憲法違反の法律が出来ると社会はどうなるのか。
2)国際社会からの文脈

メモをもとに記事にしますが、分ったつもりでも文章にすると大変。
頑張ってみます。

さて、私は、去年の8月には、憲法学者の木村草太氏と哲学者の國分功一郎氏による
集団的自衛権の行使容認の閣議決定に関する講演会を聴いています。
また憲法とは何かについては、昨年10月に弁護士の伊藤真氏の話しを聞いています。
それを去年の12月の選挙の前に記事にしています。
木村草太氏、國分功一郎氏、伊藤真氏の憲法の話。

12月の記事では、以下を扱っています。
1)政権の欲望について(國分功一郎氏)
2)閣議決定に対する専門家としての見解(木村草太氏)
3)日本国憲法とはどういうものなのか(伊藤真氏)

憲法問題のように難しい問題は、本は少しハードルが高かかったら、
勉強会や講演会で専門家の話しを聞くのが理解が早いから良い方法だと思います。
二時間くらいでコンパクトに全体像をつかめるのでオススメです。

さて、今回の講師の川上詩朗氏は、
日本弁護士連合会 憲法問題対策本部事務局長で、
日弁連による「安全保障法制定改定法案に対する意見書」を持参して
廃案にむけて国会議員一人一人を説得する行動派。

まず、最初に総論として、
弁護士さんにも改憲派護憲派、いろいろいるけれど今回の安保法制は
憲法の枠を越えてしまう法律による憲法破壊である、という点では一致している、
とのことでした。

法律が国民を縛るものとすれば、
憲法とは国家権力を縛るもの。
これを立憲主義といい、日本国憲法の場合
1)国民主権
2)恒久平和主義
3)基本的人権の尊重
が3本柱です。

では、憲法が破壊されるとどういう社会が出来るのか、
というのが最初の提議。

これは、若手の弁護士さんたちが、明日の自由を守る若手弁護士の会という会をつくり全国で活動していて、
若いお母さんたちと憲法の話をすると、
必ず聞かれるのだそうです。
「憲法破壊、だから何?」って感じなのだそうです。

で、川上氏が歴史上の憲法破壊された社会の実例として、いきなり出してきた実例はなんだと思いますか?

これが、ヒトラーなんですね。

当時ドイツはワイマール憲法で
ナチス党は選挙を通じて出て来て、しかし多数は取っていなかった。
しかし、大統領の緊急勅令で指名され、ヒトラーは首相になった。
そして授権法ーーー全権委任法により権力を掌握。
憲法が破壊され、
法の支配から人の支配へと変わる。
つまり、独裁。

独裁になると、
まず政敵を抹殺する。
次に障害者を殺害していく。
さらに、同性愛者を殺害していく。
そしてユダヤの虐殺に繋がった。

結局、憲法が破壊されると独裁政治になる、ということなのです。

日本国憲法では自衛隊を海外に派兵するには、
国民投票で憲法を変えなければなりません。

しかし、自民党はこの手続きを逆からやろうとしているのです。
自民党は、まず、この安保法制という法律で実質的に憲法を破壊して
次には明文改憲(自民党改憲草案(PDFファイル)行うはずである。
それには「国家緊急権」(自民党改憲草案 第九章 「緊急事態」)という憲法を越えて自分達が思い通りにする
内容が含まれていて、それが、先のヒトラーの全権委任法にそっくりなのだそうです。

改憲草案の解説のサイト

このナチスとヒトラーに関する著書として、
下記の本を川上氏は紹介されていました。

さて、もう一つ重要なのが、国際的文脈、というものです。

【国連憲章第2条(紛争の平和的解決義務・武力不行使原則)】
が国連で定められていて、
これは、第一次世界大戦以前から少しずつ国際社会が、
知恵を出し合って世界平和にむけて進化させ、価値観が具現化されて来ました。

国際連合憲章

第一次大戦以前は、戦争というのは主権国家の自由であるという「正戦論」が主流だったものを
第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、戦争違法化のコンセンサスが国際社会の中で
えられていくようになります。

第2条〔原則〕
この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
(略)
3)すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4)すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

この条文の3と4は、日本国憲法9条の一項に似ている、と川上氏は指摘されます。

ただ例外がある。国連憲章の42条と51条で、51条の方に集団的自衛権が出て来ます。

第51条〔自衛権〕
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国が措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

この51条では、他国から武力攻撃された時、国連決議が出るまでの間、
個別的自衛権と集団的自衛権で自分の国を守ることができますよ、ということだけれど、
集団的自衛権というのは、海外派兵を意味するので、憲法九条の第二項に違反するので認められらない、というのが従来の政府の見解だったわけです。

ここで9条を見てみます。
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)

第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

この9条を素直に読むと、自衛隊も憲法違反みたいな気がするけど
と言っても、自国が攻められたら正当防衛も出来ないのは現実的でない、
ということで、自衛のための個別的自衛権は持てるという「解釈」で
政府は通して来た。

でもさすがに、海外に派兵するのは「自衛」と強弁できないでしょう、
海外派兵するなら、憲法改正しなければいけませんよ、
と、憲法学者や弁護士さんたちは言っているわけです。

これは九条の解釈だけど、
もう一つ分りやすいのが、昨年12月に書いた記事の、
木村草太氏の憲法73条に関する説明です。

憲法73条には内閣のするべき仕事が書いてあるのだけれど、
その中に「外交」はあるけど「軍事」は無いので、
軍事に言及した閣議決定は明らかな違憲、だというのです。

ちなみに
「外交」は他国の主権を尊重して、対等の立場で行う活動
「軍事」は他国の主権を制圧して行う活動。
と定義されるようです。

自民党は「国の安全を守るのは政治家の仕事」と言って憲法違反を突破しようとしているけど、
国の安全は「外交」で守るように定めているのが日本国憲法なんですね。
どう見ても、「軍事」は憲法違反ですよね。

いずれにせよ、9条の解釈からも内閣の仕事からも
憲法違反ということです。

で、次回は、今回出されている安保法制の内容を見てみます。