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春爛漫の さくらの名画

最近は、さくらと言えば、ソメイヨシノ。
東京は、ソメイヨシノが盛りをすぎ、ハラハラ花びらが舞い始めています。
ソメイヨシノが実はほとんどすべて接ぎ木のクローンである
という事は有名な話しです。

葉が出る前に花が密集して咲き、
散る風情がまさに「花吹雪」なので、
人気なのかもしれません。

クローンであるためか、育つのが早く、
街路樹に使われて増えたこともあるのでしょう。

で、さぞかし、沢山ソメイヨシノを描いた名画があるだろうと思うと、
残念ながら、ソメイヨシノが植えられるようになったのは、
江戸の終わりからで、むしろ現代の作家の方が
手がけているようです。

で、私の一押しのさくらの絵は、明治から昭和にかけて活躍した松林桂月の作品
「春宵花影図」です。
近代美術館の所蔵で、没年が1963年で、没後50年過ぎているとはいえ、
著作権が微妙なので、しかも、国立美術館のアーカイブは転載禁止なので、
リンクだけ貼っておきます。
春宵花影図(1939)
拡大図

墨と胡粉で妖艶なまでに月に浮かぶさくらの枝が描かれています。
古典的な技法を用いて、実にモダンな墨絵を作り上げる事に成功している作品です。
種類は葉がそこかしこに見えるのでソメイヨシノではないでしょう。

もう一枚は、横山大観のかがり火と組み合わせた「夜桜」
こちらは大倉集古館蔵。
右上に描かれた山に半分かくれた月の白さと
かかり火の赤と空の群青とが、さくらの大木を包みます。
こちらも葉が描き込んであるので、
ソメイヨシノとは別種のよう。

ソメイヨシノは、エドヒガン系の桜とオオシマザクラの交配で
生まれたと考えられているようです。
その原種であるオオシマザクラのスケッチを上げておきます。
これは去年描いたものです。
花のつき方が密集していて、ソメイヨシノと似ていますが、
可愛い緑色の葉と花びらには斑がかかったようにピンクがさしています。

20150402oshima

さて、松林桂月の作品が、1939年(昭和14年)開催のニューヨーク万国博覧会
の為に制作された作品である、という事は気にしてみたいと思います。
満州事変が起きたのが昭和6年で、真珠湾攻撃は1941年12月8日。
充分にきな臭い時代に、こういう妖艶な絵が描かれた事は何を意味するのでしょうか。
芸術家特有の嗅覚が何かを感じ取っていたのかもしれません。

それにしても、
花びらが散るのは本当にきれいですが、
散るのは花びらだけにしておきたいものです。