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宇宙論の歴史を読む 〜宇宙はなぜこのような宇宙なのか〜

最近読んだ本です。
宇宙はなぜこのような宇宙なのか――人間原理と宇宙論 (講談社現代新書)

この本は
「宇宙がなぜこのような宇宙であるのかを理解するためには、われわれ人間が現に存在してるという事実を考慮に入れなければならない」(本書前書きより)
という人間原理にいたるまでの
宇宙論の歴史のお話です。

この本は本屋でかなり以前に見つけて積んどいたのだけれど
「〜人間原理と宇宙論〜」という副題に惹かれて買いました。

私の中では、

何やらうさん臭そうな宇宙論の「人間原理」。
人間中心主義の宇宙論の話しなのか?
そうか、人間はそこまで傲慢になったのか?
やはり一度読んでおいたほうがいいかも。

と思ったわけです。

著者の青木薫氏は
京都大学大学院で「原子核理論」で博士号を取得した後
科学分野の出版翻訳にかかわって来た方。
サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」の翻訳などで有名です。

先に述べたようにこの本は
古代天文学や占星術、
バビロンの捕囚に、
ギリシャ哲学のプラトン、アリストテレス、
そしてルネッサンスのコペルニクスにガリレオ、
巨人ニュートンやアインシュタインを経て
ビックバン理論が合意を得て
いわゆる「人間原理」に至るまでに
科学者は宇宙をどのようなものだと考えて来たのかの
俯瞰した歴史を語っています。

で、「人間原理」とはどういうものなのか。
それを楽しみに読み追っていった私にはかなり気の抜ける、
でも考えれば当たり前の結論が
用意されています。
ただ、それを書いちゃうのは
ネタバレになるので本書をお読み頂くとして
いくつか、面白いと思ったことがあります。

例えば「重力」の話し。

私が地球から転げ落ちないのも重力があるからで、
さぞやすごい力だと思っていました。
しかし「重力」は想像以上に弱い力で、
例えば、もし重力が今より強ければ、
冷蔵庫に壁にマグネットで止めるメモだって
落ちてしまうはずだと著者は説明します。

なるほどね〜。
赤ん坊だってよちよちと歩けるのは
私たちが絶妙な重力に生かされているからなのね。
これは新鮮でした。

それから理論物理という学問そのものについて。
常に先に理論が構築されて、
あとから知られていた事実や観察で実証される、
という点が面白かった。
科学って実験で証明するものばかりと思っていたから。

この本を読むと
人類というか西洋は粘り強く粘り強く
先人の知恵を検証しながら
まさに人類がその生を無駄にせずに、
知を積み重ねて来たことがよく分かります。

他の地域にも天文学やら宇宙論がないわけではないだろうけど
それでも結局今の科学は常にギリシャからの系譜で始まる。
そしてひたすら先人を追い抜こうと
その記憶を辿りながらも
新しい発見をしてくる。

美学の本を読んでも、
理論物理の宇宙論を読んでも
政治の分野でも
最初に出て来るのはギリシャの哲学者たち。

それらがかのヨーロッパ大陸で生まれたからに他ならないのだけれど、
実際世界がそれらの系譜を引き継いて
今の世界が構築されていることは動かし難い事実で、
やっぱり、西洋哲学周辺というのは
世界を理解するのにはずせない。

もちろんそれらが全てが良いわけではないではないし、
むしろ、上手く回らなくなって来たり、
行き過ぎてひずみを生んでいるのは事実。

それでも、そういう出自や歴史を知らないと
今の世界への理解はすごく浅くなり、
一国の首相が立憲主義を平気で否定したりできちゃうわけです。
知らないことは怖いけれど強くもあるんだな、と思ったり。

さて、この本、★★★。星三つです。
宇宙論の歴史を俯瞰する、という点からは読んで損はないと思います。

宇宙はなぜこのような宇宙なのか――人間原理と宇宙論 (講談社現代新書)

ところで、突き指してしまい、
個展を前にして、本来ならひたすら制作しているはずなのに、
スケッチにも行けないし
個展の新作にも取り組めない。
写真も撮れないし(人差し指だから)
個展のDMも作れない。
なんとかマウスは使えるのだけれど、
お手伝いしている法人の事務作業だけで
目一杯。特に決算あるし。(やっと終わったけど。ふう〜っ。)

しかし、まあ、人間万事塞翁が馬。

とにかく肩凝りがホロホロとほぐれていくし、
本が読める。
英語の勉強がはかどる。
始めるかどうか悩んでいたイタリア語も始めてしまった。

なんで今更イタリア語?
実は、10年位前から
気になるイタリアルネッサンス期の
無名の画家がいて、
いつか(ほんとにいつか)模写しにイタリアに行きたいなあ、
という思いが最近フツフツして来たわけ。

試しに本屋に行って
イタリア語の本をパラパラめくってみると
あらフランス語が役に立ちそう。
そりゃそうです。隣の国の言葉なのだから。

フランス語は単語を3000語しか覚えなくていい、
という研究者の言葉でホイホイ始めてしまった私。
結局日本にいるとあまり使わない。
でも、美学の本(もちろん日本語)を読んでいると以前に比べて、
格段に理解が進むことは実感していた。
何事も、やって無駄な事はないんだな、と思っています。