日別アーカイブ: 2013年10月20日

タネの話(2)/ヒマワリのタネを食べるカワラヒワの図

タネの話「その2」です。
自分の復習もかねて書いていたら、
少し長目の記事になってしまいました。

アルシュ紙に水彩、ガッシュ、色鉛筆

アルシュ紙に水彩、ガッシュ、色鉛筆


絵は、花が終わったヒマワリのタネを食べるカワラヒワの様子です。
食べる食べられるの関係で、自然界は繋がっています。
人間だってその一部です。

遺伝子組み替えの話をする前に、
17日のブログの最後に

ヒマワリの種は、昨年咲いたヒマワリから採取したもの。
この種は蒔くと花が咲くのかな?

え、タネを蒔けば芽を出すのが当たり前じゃないの?

……のはずが、どうも最近は様子が違うのです。
 人間はお金と効率のためには、いろんな事を考えるのです。

と書きました。

この話からしましょう。
野口勲氏の「タネが危ない」から取り上げます。

少し複雑な話になるのですが、
昔は農家では、その年に育てた作物から翌年のためのタネを取って翌年植え、
またその翌年(つまり翌々年)には前年の作物から取れたタネを植え、
と言う風に毎年毎年タネを引き継いで来ました。
代々の性質が変わらないので「固定種」と呼び、そこからタネを取ることを
「自家採種」と言います。

昔はこれが一般で、タネ屋では「一粒万倍」として売られていたようです。
タネの話(1)で一粒の種もみが500粒になる事を書きましたが、
まさに、永続農業ですよね。

ところが、この固定種は「商品」になりにくい、
という面があるのです。
というのは、

大きさが揃わない、
一斉に収穫出来ない

のです。

昔の八百屋さんは一キロ幾ら、で売っていたので、
大きさが揃わなくても問題無かったのですが、
今はスーパーなどの小売り形態が増え、大きさが決まっていないと
出荷納品などがロスが出ます。
また量も同じ時期に一定量が取れないと「商品」として取引出来ません。

と言うわけで、登場したのが「F1」(エフワン)と呼ばれる、
大きさが揃って一斉に収穫も出来る作物です。
今は市場にはF1種しか無いくらい、席巻しているタネなのですが、
遠縁の交配種で同じ形質を持った二代目は作れないのです。
つまり、自家採種が出来ないのです。
ということは、今の農家は毎年タネ屋からタネを買って
作物を栽培しているのです。

この話は私にとっては、かなり衝撃的でした。

検索してみたら、交配種とそうでない品種とはどう違うの?というサイトを見つけたので
もっと知りたい方はご覧下さい。

それから、少し脱線しますが、
タネの話は「メンデルの法則」そのものです。
おさらいしたい、という方は、
こちらの生物学基礎のホームページはいかがでしょう。
遺伝の法則のページ
このサイトの作者、和田勝氏の本

この本は、高校で生物を履修しない医学生のための本なので、
懇切丁寧に、詳細を図入りで生物学入門から分子生物学まで学べます。
それでも私なぞにはまだ難しい。
一度電子顕微鏡で細胞見てみたいなあ、と思ったり。

さて、その市場を席巻しているF1種はどのように作られるのでしょうか。
F1種は現在は「雄性不稔」(ゆうせいふねん)というやり方で
作られています。
「雄性不稔」というのは言ってしまえば、タネのインポテンツ。
野口氏は本の中で、以下のように述べています。

ミトコンドリアが傷つくことによって、動物も植物も子孫を作る能力がなくなってしまう。ミトコンドリア遺伝子の異常を起こした植物が雄性不稔のF1になった。我々はそのF1野菜を食べている。我々は日常的に、生殖能力を失った、ミトコンドリア異常の野菜を食べている。玉ねぎのミトコンドリアは玉ねぎ全体の重さの一割を占める。玉ねぎの異常遺伝子は脈々と受け継がれていくのである。
「タネが危ない」P.120より

ミトコンドリアってなんだっけ、という方は生物学基礎のページをご参照ください。
細胞の構造
「パラサイト・イブ」の作家瀬名秀明さんが書いた本もあります。

そして「雄性不稔」を利用したF1のタネは、
子孫が出来ないため、タネが盗まれることがなく新種を独占出来る、
というタネ企業にとってはおいしい「商品」。

しかし、野口氏は、本の中で警鐘を鳴らします。
科学的な研究がなされたわけではないので、あくまでも氏の推論と断りつつも、
最近ミツバチが一斉に消えた話や人間の精子が激減していることなど
もしかすると、この「子孫を作れない植物を食べること」と関係があるのではないか、
しかし、今はそれを証明出来ない、と言っています。

とはいっても、経営という視点を考えたとき、
F1を否定出来るものでは無い、と野口氏も書いています。

さて、雄性不稔のF1の話のあと
ようやく遺伝子組み替えの話になります。
長かった〜。でもこれから先の話はさらに考えさせられます。

遺伝子組み替えと言うと、組み替える植物の遺伝子を取り出して
人間が操作するのかと思っていたら、違うのね。
生きているバクテリアを使うらしいのです。
えええ、って感じですが、なので、
「アグロバクテリウム法」と呼ぶらしいです。

以下は、「タネが危ない」の152ページを要約してみます。
アグロバクテリウムはバクテリアの一種です。
土壌細菌で世界中どこにもいて、その辺りの土の中にもいっぱいいるらしい。
細菌というのは自分の大元の遺伝子は渡さないけれど、
「プラスミド」という小銭のような遺伝子をお互いにやり取りして、
例えば、ある細菌が除草剤に強い耐性を獲得すると、
除草剤に強い耐性をプラスミドに入れて、隣の細菌に渡す、
のだそうです。
これでドンドン除草剤に強い細菌が増えます。
そしてアグロバクテリアが植物の中に入ると異物とは見なさずに
取り込んでしまい、ガン細胞のように増え、植物は枯れてしまう。

この植物がプラスミド遺伝子を取り込んでしまう性質を応用したのが
遺伝子組み替え作物、というわけです。

遺伝子を組み替えるには、葉っぱを切り抜いて、
遺伝子組み替えされたプラスミドが培養された液に浸すと、
葉っぱの傷口からプラスミドがすべての細胞にはいり、
その葉っぱは一つの植物として成長。

すごいのは、
出来上がった植物細胞の一つ一つ、花粉の一つ一つまで
すべて遺伝子が組み替えられるということ。

そして、なんとなんと、
花粉がまた外に飛び出して、
交配した他の植物を遺伝子組み替えにして行く、のだそうです。
一度遺伝子が組み換えられると、花粉が飛ぶ限りエンドレスですね。

で、このホラーのような遺伝子組み替え技術で、
今のところは封印されているけど、超ど級に怖い技術に
「ターミネーター・テクノロジー」というのがあるそうです。
「自殺する遺伝子」と呼ばれるターミネータ遺伝子を組み込んだものだそうで、
遺伝子操作によってタネの次世代以降の発芽を押さえるのが目的。

農家の自家採種を何が何でもさせないぞ、
というテクノロジー。
強欲な技術であると同時に、
野口氏は、この「自殺する遺伝子」を持った植物が
根の細胞を通じて、寄生する細菌とプラスミドを交換しあったら、
とんでもないことになるのでは、と書いています。

今は封印されている技術だけれど、もし解禁されて、
このターミネーター遺伝子を持った花粉が世界中にまき散らされたら、
植物は次世代が作れないことになります。

野口氏は

植物の死は動物の死と直結する。一時しのぎの経済戦略が地上を死の世界に変えてしまう危険性を秘めている。(「タネが危ない」P.156より引用)

と述べています。

さて、生物学的な面だけでなく、社会的には、
遺伝子組み替え産業が世界の種苗メーカーの株を買って
ドンドン傘下に収めている、
という事実もあります。

2007年には、世界の種子会社は
一位モンサント、二位デュポン、三位シンジェンタという
バイオメジャーに占められました。

日本の種苗会社もいつ買収されるか戦々恐々。
タキイは上場せずに一族で株を持ってなんとか凌いでいるそうです。
検索したら、今日の日付で、世界の種苗会社のランクがのっていました。
種苗業界の世界勢力図

「タネを支配するものは世界を支配する」のでしょうが、
世界を滅ぼしかねない技術で儲けて、同時に自分達の生き物としての足下をも
蝕んでいることになります。
もし意識的に「我が亡き後は洪水来れ」と思ってやっているのでなければ
自分で自分の首を絞めているように思えるのです。

付け加えると、
先に名前の出たバイオメジャーを始め、世界の600ぐらいのグローバル企業に
日本市場を明け渡す、のが、いわゆる「TPP」です。

さて、最後に「タネが危ない」を書かれた野口勲氏の会社のホームページをご紹介します。
野口種苗

自分でタネが取れる野菜。いいですね〜。
作るのもワクワクしそうです。
私はなかなか本格的に野菜作りは始められないのだけれど、
楽しみが増えました。